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家庭で実践する飲食のプロが行う「加熱」と「冷却」のテクニック

2025年08月14日 09:12

こんにちは、行政書士の林です。


皆さんは、ご家庭で食材を加熱したり、冷却したりする調理工程は、美味しさを

作り出すためだけのものでは無いことを意識していますでしょうか?

「加熱」は、菌をやっつけたり、「冷却」は菌の増殖を抑える役目も担っている

ことを再認識しましょう。

「きちんと火を通したから大丈夫」

「冷蔵庫に入れたから安心」と、

漫然とした思い込みで食中毒のリスクを招いてしまってはもったいないことです。

職場だけでなく、ご家庭での正しい「加熱」と「冷却」の知識と実践は、

単に家族の健康を守るだけでなく、従業員への衛生意識の向上にも繋がります。

今回は、皆様が工場で培った科学的な視点を取り入れ、家庭でできる食中毒防止の

ための「加熱」と「冷却」の重要な役割をお伝えします。

中心温度計のススメ

プロなら当然?家庭でも活用したい中心温度計の重要性と使い方

食品工場では、製品の中心温度を測ることは当たり前の工程です。

例えば、唐揚げの表面はカリッと揚がっているが、内部の肉は熱が通っていなくて

生の状態の場合があるので中心温度計で内部の温度を確認するのです。

しかし、家庭で中心温度計を使っている方は、まだまだ少ないのではないでしょうか?

見た目だけでは判断できない、食材の内部の温度を正確に知ることこそ、

食中毒防止の第一歩です。


なぜ中心温度計が重要なのか

食中毒菌の多くは、75℃で1分間以上の加熱で死滅する(あるいは、同等の効果が

得られる)と言われています。

しかし、食材の表面が十分に加熱されていても、中心部までこの温度に

達しているとは限りません。

特に、厚みのある肉や魚、その他大きなかたまりの食材は、内部まで熱が

伝わるのに時間がかかります。

中心温度計を使えば、菌が死滅する安全な温度に達したかを確実に確認でき、

生焼けによる食中毒のリスクを劇的に減らすことができます。


家庭での使い方

デジタル式の中心温度計は、最近では手頃な価格で手に入ります。

モノタロウ等のネット販売を調べてみると、家庭用の中心温度計は約3,000円程度で買えます。

使い方: 食材の一番厚い部分にプローブ(針状の金属)を差し込み、表示される温度を

読み取ります。


活用例

・肉料理(鶏肉、豚肉など): 特に鶏肉はカンピロバクター菌のリスクがあるため、

中心部が75℃以上になっていることを確認しましょう。

・ハンバーグ、ミートボールなど: 挽き肉は内部に菌が混じりやすいため、

中心部が75℃以上になるまで加熱します。

・魚の切り身: 魚の種類にもよりますが、こちらも中心部が75℃以上になるのが目安です。

・揚げ物: 外側は揚がっていても、内部が生焼けの場合があります。

中心温度を確認することで安心です。


「危険温度帯」を避ける調理法

食材を安全に加熱・冷却するための時間と温度管理の具体例

食品工場では、「危険温度帯」という言葉は日常用語です。

この温度帯こそ、家庭で食中毒菌が最も増殖しやすい環境であることを

再認識しましょう。


危険温度帯とは?

多くの食中毒菌が最も活発に増殖する温度帯は、約10℃から60℃と言われています。

この温度帯に食材が長く置かれるほど、菌は増殖し、食中毒のリスクが高まります。


安全な加熱のポイント

・徹底加熱の原則: 加熱調理する食品は、中心部が75℃で1分間以上

(またはそれと同等以上の加熱殺菌条件)になるように十分に加熱しましょう。

特に、肉類や魚介類、卵は中心部まで火が通っていることを確認してください。

・再加熱時の注意: 調理済み食品を再加熱する場合も、中心部が75℃以上になるまで

しっかりと加熱します。温め直しが不十分だと、加熱で死滅しなかった菌や、

増殖した菌による食中毒のリスクがあります。


安全な冷却のポイント

加熱調理後の食品は、菌が増殖しやすい危険温度帯をいかに素早く

通過させるかが重要です。

急速冷却の重要性: 加熱調理した食品を保存する場合は、できるだけ早く20℃以下、

さらに10℃以下に冷却することが重要です。

工場で行うブラストチラーのような急速冷却は家庭では難しいですが、

以下の方法で工夫しましょう。

・小分けにする: 温かい食品は、大きな塊のまま冷蔵庫に入れると冷えるのに

時間がかかります。粗熱が取れたら、小分けにして保存容器に入れましょう。

・浅い容器に入れる: 表面積が広い浅い容器に入れることで、熱が放散されやすくなります。

・氷水で冷やす: 鍋ごと氷水に浸したり、保存容器の周りを氷で囲んだりすることで、

効率的に冷却できます。常温放置は避ける: 調理後、すぐに冷蔵庫に入れられない場合でも、

食卓に長時間放置するのは避けましょう。

特に夏場は室温が高く、危険温度帯に長く留まることになります。

作り置き料理の注意点

ご家庭において、忙しい日々の中で、作り置き料理は大変便利です。

しかし、工場で厳しく管理される「製品の消費期限」と同じように、

家庭の作り置き料理にも安全な「保存期間の目安」があります。

再加熱のポイント

・必ず再加熱

作り置き料理を食べる際は、食べる直前に必ず中心部が75℃以上になるまで

十分に再加熱してください。

電子レンジを使う場合も、加熱ムラに注意し、途中でかき混ぜるなどして

全体を均一に温めましょう。

・一度温めたものは再冷蔵しない

一度温め直した料理は、その日のうちに食べきりましょう。

再度冷やして保存すると、菌が増殖するリスクが高まります。

急速冷却の重要性

前述の通り、調理後の急速冷却は作り置きの安全性を左右します。

粗熱を取ってから、素早く冷蔵庫に入れましょう。

加熱された食品を冷却せずに、冷蔵庫に入れてしまうと冷蔵庫内の温度が上昇し、

他の冷蔵食品に悪影響を及ぼします。


保存期間の目安

工場の製品のように厳密な期限表示は難しいですが、一般的な目安を知っておきましょう。

冷蔵庫内の庫内温度をより正確に測るには、冷蔵庫用温度計を使用します。

家庭用冷蔵庫用の温度計は、モノタロウなどのネットサイトを調べてみると、

デジタル式(マグネット付き)が3,000円程度で買えます。


冷蔵保存

調理済み食品: 清潔な容器に入れ、フタをして冷蔵庫で保存します。あくまで目安ですが、

2~3日以内に食べきるのが理想です。具材や調理法によっては、さらに短くなる場合もあります。

カレーやモツなどの煮込み料理: 調理後に急冷し、冷蔵保存しても、ウェルシュ菌などが増殖するリスクがあります。

これらは特に、一晩置いたら再加熱を徹底し、2日以内に食べきるのが望ましいです。

夏場のキャンプ場で食中毒が発生したニュースなんかを良く耳にしますよね。

冷凍保存:

長期保存には冷凍が有効: 冷凍すれば、菌の増殖は抑えられます。清潔な保存容器やフリーザーバッグに入れ、空気を抜いて冷凍しましょう。

保存期間: 一般的に2週間~1ヶ月程度が目安ですが、食材や保存状態によって異なります。長期間保存すると品質が低下することもあります。

解凍方法: 冷凍した食品を解凍する際は、冷蔵庫内での自然解凍や電子レンジ解凍が安全です。常温での解凍は、危険温度帯に長く置かれることになるため避けましょう。


電子レンジ調理の注意

食品工場では均一な加熱のために様々な工夫が凝らされますが、家庭で手軽に使える

電子レンジには、特有の「加熱ムラ」という落とし穴があります。

加熱ムラの危険性

電子レンジは、マイクロ波の特性上、食品の温まり方にムラが生じやすい調理器具です。

温かい部分と冷たい部分ができてしまい、冷たい部分に食中毒菌が生き残ってしまう

可能性があります。特に、厚みのある食品や、形状が不均一な食品は注意が必要です。


加熱ムラを防ぐ対策

・小分けにする: 一度に大量の食品を加熱するのではなく、少量ずつ加熱しましょう。

・均一に並べる: 皿に盛り付ける際は、厚い部分が外側になるように配置するなど、

均一に熱が伝わるように工夫しましょう。

・途中で混ぜる・裏返す: 加熱途中で食品をかき混ぜたり、裏返したりすることで、

熱が全体に均一に伝わりやすくなります。

・ラップを活用する: ラップをかけることで、蒸気がこもり、食品全体が温まりやすくなります。

・加熱時間を守る: パッケージに記載されている加熱時間を守り、必要に応じて

加熱時間を追加しましょう。加熱後の確認: 加熱後も、中心部まで温まっているか、

可能であれば中心温度計で確認しましょう。特に肉類や、一度解凍したものを

加熱する場合は念入りに確認してください。

その他、注意すべき点としては、スーパーで無料で使用できる薄い袋を使用して、

長時間加熱したりワット数の大きいもので加熱すると袋が溶解している場合があるので

注意して下さい。


この記事は食品衛生法、厚生労働省「家庭における食中毒予防の6つのポイント」および

「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」等を参照し、

私が見てきた飲食店や食品工場で実践されていることをまとめたものです。